大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

秋田家庭裁判所 平成3年(少)852号 決定

少年 T・J(昭47.11.8生)

主文

少年を中等少年院に送致する(特修短期処遇相当)。

理由

第1非行事実

少年は、A(21歳)と共謀のうえ、平成3年7月25日午前2時30分ころ、秋田市○○×××番地所在の有限会社○○駐車場において、同社代表取締役B(40歳)管理にかかる普通乗用自動車(登録番号、秋××ろ××××号)からアルミホイル付タイヤ4組(時価合計36万4000円相当)を取りはずして窃取したものである。

第2法令の適用

刑法235条、60条

第3処遇の理由

少年の非行傾向は、中学校3年在学中の昭和62年ころ、進学校に対する不満などをきっかけに、同学年の少年との不良交遊を開始し、その生活が乱れ始めた時点まで遡ることができる。その後、高校に進学した後は、遅刻、怠学、夜遊びなどの問題行動が顕著になった他、同2年在学中の平成元年ころから、窃盗、無免許運転などの具体的な非行行動も見られるようになった。そして、高校卒業の後、いったん、仙台市の専門学校に入学したものの、わずか3か月でこれを退学し、秋田市内に戻り就労はしたものの、夜遊びなどの傾向が継続する中で、平成2年ころに知り合った共犯者と本件非行を犯すに至ったものである。

なお、少年の保護処分歴については、平成2年7月、無免許運転行為により交通保護観察の処分を受けたが、この期間中は担当保護司に対する出頭は履行していた他、顕著な非行は見られなかった。しかし、この期間内においても、生活そのものの改善傾向は見られず、また、シンナー吸引などの問題行動は継続していた。

少年の問題性は、年齢に相応する社会性の未熟さが顕著に見られることである。すなわち、一方で、本件非行に対する認識においても、少年は、共犯者に追随して敢行したものであることをことさらに強調して自己の行為の正当化を図るが、その言い分を前提としたとしても、そもそも非行そのものが社会的規範に違反するという基本的認識において欠落があると言わざるを得ない。そして、他方、前記保護観察の経過にも見られるように、非行により専門家の指導による更生の機会を付与されても、自己の生活を改善しようとする意欲を喚起することなく、いわば「保護司のもとに出頭すればよい。」といった程度の認識しか持てないことも、その社会性の未熟さの表れと言える。

本件非行は、その性質上、重大な非行とまでは言えないが(もっとも、被害額自体はこの種事犯の内では相当多額のものではある。)、犯行に至る経緯及び少年の本件非行に対する関与の在り方から見れば、少年のこれまでの生活歴とその性向の当然の帰結と言えるものである。

そして、本件非行により相当期間の身柄拘束を受けた現時点においても、なお少年の非行に対する内省と今後の生活についての自覚にははかばかしい変化の兆しが見られず、就労の見込み、家族との関係の在り方など、少年が当面している課題自体についても、はかばかしい展望が持てない状況にある。

加えるに、少年の両親においても、少年の今後の生活改善のための具体的な方途を持ち合わせていないばかりでなく、少年の監護そのものに対しても、その意欲と能力を喪失しつつある。

以上によれば、少年に対しては、現状において社会内処遇を選択するについては、少年自身の資質及び周囲の環境から見てその基本的条件が欠落しているものというべきであり、また、少年に対してもいたずらにその規範意識等を弛緩させ今後の社会性の取得を困難にするおそれがある。

従って、この際、少年には、一定期間規律の取れた施設において職業訓練等を通じてその社会性を涵養しつつ、今後の生活そのものの改善に向けられた働き掛けを必要とするものと考えられるが、少年の非行の内容は前記のとおり比較的軽いものにとどまっており、その意味で、少年の非行性も固定化ないし常習化したものではないと考えられることからすれば、こうした処遇は、開放的な環境の中で短期間の集中的な指導により達成することができるものと認められる。

よって、少年を特修短期処遇の意見を付したうえ中等少年院に送致することとし、少年法24条1項3号、少年審判規則37条1項により主文のとおり決定する。

(裁判官 神坂尚)

処遇勧告書〈省略〉

少年調査票〈省略〉

鑑別結果通知書〈省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例